中国人の人的パワーに日本は勝てるか?<前編>

テレビで観た中国のモノクロ衝撃映像

その昔、仕事場で撮影中のカメラマンに話したけれど、信じてもらえなかった話をしよう。中国の英雄とされている毛沢東は、共産党を組織し中国全土を1つの独立した国家としてまとめ上げる革命を起こした。革命は成功したのでつぎは『大躍進政策(Great Leap Forward/1958.59年)』を打ち出した。第一に食糧増産を図るため「スズメ撲滅運動」を中国全土に発令した。驚くべきはそのスズメの捕獲方法だ。

日本の古典落語には「酒に漬けた生米」でスズメを酔わせて掴まえる話があるが、中国はなんと全国民が力をあわせてスズメを追いたて、地面に着地できないよう追いかけ回したのだった。まずここでカメラマンは「ホントかよ」と、のたまわれた。

私は実際の映像を観ているから、その結果についても続けて話した。何百台も続くトラックに山積みされたスズメ、スズメの死骸。笑顔でその成果を喜ぶ中国の人、人、人。カメラマンは仕事の手を休め「んなワケないだろ」と言い張る。私はその後の話を続ける。
農作物を食い荒らすスズメは悪者だとして、毛沢東が命令した「大量捕獲作戦」は成功したけれど、その後スズメがいなくなったことで害虫が大量発生し、農業生産は大打撃。未曾有の大飢饉をもたらし、4年間で3800万人の人が餓死したと...。

「それだけじゃないぞ、観た映像は」といいながら、中国での運河工事のようすも話し出す。まずは運河そのものの形に数え切れないほどの人員を配置する。配置された人々は手に手にクワや鋤を持っており、運河になる予定の川上から少しずつ流される水とともに、足下の地面を耕し、後ろへ廃土を廻していく。足下の土が泥となって後ろへ流して行くから、当然穴は深くなっていく。運河を造るにも莫大な人力があれば、ブルドーザーもトラックも必要としないという、恐るべき光景だった。

カメラマンは「余計に信じられんな」という。私は「観たんだから仕方がないだろ」と、まるで丹波哲朗にようなセリフを発するしかなかった。カメラマンからはただのヨタ話として扱われたが、この話はここで終わらない。話はしなかったが映像にはまだ続きがあったからだ。

先進国に遅れまいとアメリカに視察にいった毛沢東は、各方面で手厚い歓迎をうけ、そのときに聞いた「鉄は国の主食」という「建築資材や造船、設備投資機械に利用される粗鉄の生産量が国の力を計るバロメーター」だという経済学者の言葉を鵜呑みし、またもや世界に中国の威信を知らしめるために、鉄の大増産を発令する。

まだそのころの中国は『農業立国』だったので、鉄の需要はそれほどない。だけど中国全土にある古くなった鉄製品から、地面に落ちている釘、缶詰、川で採れる砂鉄、etc...。とにかく何でもかんでも溶かして(そのため膨大な森林の樹木を燃料として切り倒した)鉄の生産量を世界一にした。

#私が映像として見たものは、大勢の農民のこどもたちが磁石を引きずり、落ちている釘や空き缶を喜々として集めている姿と、丸裸にされた山、山、山の無惨なありようだ。

「鉄の生産量を世界一」の実績をもとに毛沢東は、自信たっぷりにアメリカへ鉄の輸出を打診する。が、米国担当輸入業者から返ってきた言葉は「これは粗鉄ではなく、不純物だらけのクズ鉄の塊だ。資材としてはとうてい使えない」だった。

観てないけど又聞きのスゲー話*1

あるアメリカ人ビジネスマンが中国に企業誘致でお誘いを受けたときの話だったと思う。たしか、用地か用地につながる道路近くに大きな山があって、視察にきたアメリカ人ビジネスマンが「山が邪魔で企業用地に向いていない」と指摘し企業誘致を断った。すると中国側の役人が「じゃぁ、あの山をなくしましょう」と近隣の農民に山をなくすよう指示すると、どこからともなく数え切れない農民が集まってきて、クワとザルとを利用しわずか3ヶ月(だったと思う)で山を削って平地にしてしまった。重機やダイナマイトを一切使わずにだ。

その後、工場を建てると今度は、仕事を求めてたくさんの中国人が集まってきた。最初は200人ほど雇う算段だったのに、1000人以上の人が工場の前に並んだ。はじめての現地採用で手間取っているうちに、1000人は2000人になり、2000人は5000人になり、そのうちにとうとう数え切れなくなり、ついには工場周辺で待っている中国人農民の糞尿が臭ってくるまでになった。

...中国がどうとかいう前に、やはり「たくさんの人がいる」ということは、一つの力だということがご理解いただけるだろうか? ヨタ話ではない。いまの日本では想像しにくいだろうが、想像してみて欲しい。実際の映像をみていない、いまの人たちに、この恐怖がうまく伝わらないのではないかと危惧する私がいる。

*1:『ワイルドスワン』で読んだのか、正確な出典元がわからないけれど...